神戸百年記念病院 麻酔集中治療部・尾崎塾 尾崎孝平
⒋見えなかったもの、感じられないもの
ICUの神様を大切にすると、いろいろな恩恵を授かることができる。事実、この神を敬う気持をもってICUに立つと、今まで見えなかったものが見え、感じられなかったものが感じられるようになってくるのである。つまり、ICUの神様の下で、真に患者の問題を解決しようと常に思いを巡らせていると、様々なことに気づき、新たなアイディアに到達することが多いのである。
「木から落ちるリンゴ」は、多くの人にとっては単に風景でしかない。しかし、落ちてこない月をいつも疑問に思っていたアイザック・ニュートンには、万有引力という理論を導きだす契機となった。いわゆるセレンディピティ(serendipity)という能力であるが、ICUの神様は私たちにこの能力を与えてくれる。
私は「呼吸を診る」というセミナーを開催しているが、実はICU入局から数年目までは、呼吸は私にとって単なる風景に過ぎなかった。しかし、ある時に自発呼吸について何も知らないということに気づかされ愕然とした。このことが転機となって、私は患者が苦しむ自発呼吸のことを真に知りたいと思うようになり、ICUのベッドサイドで患者の胸郭をつぶさに見続けるようになった。すると、それまで見えていなかったものが見えるようになり、気づかなかったことに気づくようになり、今も患者から呼吸について多くのことを学べるようになった。つまり、呼吸を診るという私のライフワークもICUの神様を大切にするようになった賜物と感謝している。